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酵母β1,3Dグルカン ウィキペディアからの抜粋分

酵母β1,3Dグルカンは西暦2008年6月現在世界で約9,000例の動物実験やヒトによる治験報告例が記録されている(その時点での米国医学図書館文献検索サイト[MedLine]による)。その殆どは酵母β1,3Dグルカン画片[fragments]が白血球細胞中のマクロファージや好中球などの自然免疫細胞に結合されて(貪食されて)それら自然免疫を刺激し、ウイルスや菌等の外敵あるいは変異した宿主細胞(新生物、腫瘍細胞などとも呼ばれる)に対する免疫抵抗力が強化される、というものであろう。一方で酵母βグルカンは自然免疫を特異的に刺激することによって過剰あるいは不要な免疫抵抗を起こすのではないか、との疑問も呈されてきたようだ。例えば酵母由来β1,3Dグルカンは宿主免疫細胞を刺激することによって組織移植で起こる宿主細胞の拒絶反応を促進(増大)するのではないか、といったような疑問である。1996年に米国外科医療誌[Journal of Surgical Research]62(2)で発表されたW.K.Washbum博士等のマウス実験論文(論文表題は日本語で「白血球特異性免疫刺激剤のβグルカンは組織移植のGVHD(*)や拒絶反応を促進しない」)はこうした疑問を払拭し、酵母β1,3Dグルカンを投与してもドナー組織移植による拒絶反応を促進しないという実証を試みたものであろう(*GVHD=移植片対宿主病変)。

ベータ1,3Dグルカンは高分子の糖質【Saccharides】で、それ自体には抗腫瘍作用や抗酸化作用などの薬理作用は無いといわれている。一方でベータ1,3Dグルカンが生体内に入ると免疫細胞に働きかけて悪性新生物(ガン細胞)を攻撃させたり、抗酸化酵素(スーパーオキシドディスムターゼ、SODに代表される)に働きかけて遊離基(生体に悪影響を及ぼすいわゆる活性酸素、フリーラジカル)消去効果を高めたりするという前医療統計学的実験論文も公表されている(上記細胞レベルでの抗腫瘍実験・治験報告および、活性酸素除去様作用については2006年にA. Pietrzycka博士等の研究陣がActa Pol Pharm誌63号で発表した実験論文等が該当するであろう)。一方、2007年にJournal of Agricultural Food Chemistry誌 55(12):4710-6でS.C. Jaehrig博士、S. Rohn博士らによって発表された酵母細胞壁画分の実験では、抗酸化作用はベータグルカンそのものよりも酵母細胞壁蛋白によるものが大きいと結論付けている。酵母ベータ1,3Dグルカンの持つ抗酸化作用・機序については前述の通り2008年6月末現在では未解明な部分が多い。これまでの研究結果の多くは、酵母細胞壁から抽出されたベータ1,3Dグルカン複合画分は免疫細胞や抗酸化酵素など生体に備わった機能に働きかけて宿主を存続させる役割を果たすという検証の試みと思われる。今後は【ベータ1,3Dグルカンが生体機能に働きかける】という間接的作用・機序だけでなく、ベータ1,3Dグルカンという物質自体の一層の特定と、その持つ物理・化学的作用の解明および安全性検証の積み重ねが期待されるであろう。

"ZYMOSAN"(日本語の発音では「ザイモサン」)というのも名詞であり、この名詞が1943年に登録された米国のある百科事典によれば"a largely polysaccharide fraction of yeast cell wall"とある。「酵母細胞壁の大きな多糖片」とでも訳せようか。1940年代初頭に命名されたものであるが、酵母細胞壁の多糖片という由来から見て(精製、未精製という違いはあるように思われるが)β1,3Dグルカンの前身と思われる

酵母ベータ1,3Dグルカンの抗酸化作用

1980年代後半から2000年代にかけて一部研究者の手によって酵母サッカロマイセス・セレビシアエから抽出したベータ1,3Dグルカンの持つ抗酸化作用の有無に関する実験検証が行われていることは上述されている。実験検証の多くは酵母細胞壁から抽出したベータ1,3Dグルカン画片(高分子炭水化物連鎖体)が示顕する抗酸化作用(生体においては活性酸素消去様作用)の現象をとらえたものではなかろうか。もし酵母細胞壁から抽出したベータ1,3Dグルカン自体に抗酸化作用があるとすれば、この多糖物質にはそれまでに実証が試みられていた免疫調整機能とは別の(あるいは源を一にする)「抗酸化環境維持能」のような機能があるのではないかということも否定できない。例えば、1987年血液病理学誌「Journal of Leukocyte Biology 42」では酵母細胞壁から抽出したベータグルカンが放射線被爆したマウスで造血機能を回復するという実験論文「Glucan: Mechanisms Involved in Its "Radioprotective" Effect」が発表されているが、著者はこの中で副次的実験結果としてベータグルカンの持つ遊離基除去機能(Free Radical Scavenger)について記している。酵母細胞壁から抽出したベータ1,3Dグルカンを含む高分子多糖成分が抗酸化作用にかかわっているのかということについては、より精細かつ具体的な検証が期待される(2008年11月1日現在)。

酵母ベータ1,3Dグルカンの特許関連

1980年代から2000年代にかけては酵母細胞壁抽出物である高分子多糖物質、特にベータ1,3Dグルカンの免疫調整作用が喧伝され始めた時期である。その時期と合わせるようにして米国を中心としてこの物質の製法や用法に関する特許が多く申請されるようになった。(用法についての特許が多いのは米国ならではであろう)。それにつれて米国内で特許係争も見かけるようになったと言われる。

酵母ベータ1,3Dグルカンと中枢神経組織

酵母ベータグルカンが免疫細胞を刺激する、という前提に基づいて1994年以来この物質が中枢神経組織の免疫細胞にも影響を及ぼすのか、という実験が進められているようである(1994年 Res. Immunol, 154(4): 267-75, 2008年 J. Immunol, 180(5): 2777-85)。中枢神経組織には【マイクログリア、Microglia】という貪食免疫細胞が在住して神経細胞を守っていると言われる。実験は酵母ベータグルカンがこの免疫細胞にも影響を及ぼすのかどうかという検証のようだ。2009年現在これらの実験は動物(マウス等)が対象である。非常に大くくりな言い方をすれば、これら実験報告はマイクログリアは酵母ベータグルカンによって刺激され活性されるが、周囲の神経細胞に害を及ぼすような過剰な免疫反応は起こさない、といった検証を試みているものであろう。

β1,3Dグルカンと放射線被曝

1970年代以降2011年まで酵母saccharomyces cerevisiaeを精製して得られるβ1,3Dグルカンには免疫細胞を刺激し、骨髄の増殖作用を促す作用を示す研究が、主として米国のジャーナルで発表されてきたようである。その作用に関連して、放射線(コバルト60)を被曝させたマウスにβ1,3グルカンを処置し、被曝によって減少した白血球、血小板、ヘマトクリットなどの回復を計測した実験が米国研究陣によって1986年に免疫医療誌"J Biol Response Mod"に発表されている。同実験を発表した研究グループの一員は6年後の1992年にもβグルカンがマウスの免疫細胞の活性と抗酸化物質の生成に寄与したという別の実験論文を発表しているようである(1992年2月Int. J. Immunopharmacol誌)。共に論文は英語であるが後者の論文タイトルは日本語で「放射線被曝マウスに及ぼす水溶性グルカンと粒状グルカンの比較効果」となる。こうした実験は放射線を被曝した動物に酵母を精製したベータグルカンを与えて生体機能の変化を観察したものであろう。2011年3月の時点ではβグルカンが被曝前に放射線を防護したという言わばシェルター機能の研究はないと思われる。